オーストラリアの著名キュレーターが生涯をかけて取り組むテーマとは?
2017年にヴェネツィア・ビエンナーレのオーストラリア館
キュレーターとして国を代表する現代アーティスト、トレイシー・モファットの展覧会を担当できたことはとても貴重な経験でした。彼女は先住民アボリジナルの血をひく作家として、自身が“フォト・フィクション”と呼ぶ演出写真の手法を使いながら、民族差別の歴史や現状の問題を提起する作品を制作してきました。アボリジナルはグローバリズムがすすんでもなお、オーストラリアの現在を特徴付ける存在ですし、この問題に取り組むことは、キュレーターである自分にとって重要なライフワークのひとつとなっています。
また、昨年には女性作家を紹介する出版プロジェクト
“Mini Monographs”をスタートさせました。第1弾として焦点を当てたポリクセニ・パパペトロウは、惜しくも一昨年に他界してしまったのですが、雄大なオーストラリアの自然を背景にしながら、童話を想起させるような幻想的な世界を写真で表現する作家で、より多くの方に知っていただきたいと願っています。
これまでに日本ではオーストラリアの現代写真展「世界は歪んでいる。」(2004年東京都写真美術館)など二つの展覧会をキュレーションしてきましたが、現在は日本の作家や評論家も巻き込んだ新たな企画を構想しているところです。私たちの生きる時代はさまさまな危険にさらされた激動の只中にありますが、多くの社会問題を作家たちとともに考えることのできる場を作り出せたら良いなと思っています。
Source: Japan Vogue